旅の話

大人女子(50's)の旅支度。旅の他、映画・海外ドラマの忘備録。

映画「スリービルボード」 感想

本年度アカデミー賞最有力候補の一つと言われている「スリービルボード(原題:THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI)を鑑賞。

あらすじ

ミズーリ州の田舎町、エビング。ある日、さびれた道路沿いに、警察を批判する3枚の広告看板が現れる。7カ月前に娘を殺されたミルドレッド・ヘイズ(フランシス・マクドーマンド)が、一向に進展しない捜査に苛立ち設置したものだ。 警察から圧力をかけられても、元夫や息子から批判されても屈せず、神父の忠告さえも受け入れないミルドレッド。 やがて事態は、広告看板に関わる人たちの運命を思わぬ方向へ動かしていく。

1分先の展開が不明

とにかく展開が読めない映画です。 「この後、こうなるのかな?」と思ったことは、次々と予想を覆す展開へ向かいます。 「予定調和」の真逆をいく脚本が面白く、最後まで目を離せません。 良い意味で観客は振り回されっぱなし。

予告編を見た時は、娘を殺された母親が、事件解決の見通しがたたない警察に業を煮やし、警察批判の看板を設置する。 それをメディアが取り上げたことから、事件は再び注目をあび、警察は犯人逮捕のため渋々動き始めるが、やがて思わぬ犯人像が…、という話かと思い込んでいましたが、全然違いました…。

でも、本当に面白かったです。

善人なのか、悪人なのか

ストーリーの流れが読めないばかりか、登場人物のキャラクターにも振り回されます。「善人」と思った人がそうでもなかったり、「悪人」と思った人が心の変化を遂げたり。

主人公のミルドレッドは、娘を残忍な方法で殺された母親。誰もが同情する立場にあり、彼女の警察批判の行動についても、最初共感をおぼえます。しかし、彼女の乱暴な言葉や極端な行動に、「ちょっとやり過ぎ?」とついていけなくなります

目的のためには手段を選ばない彼女の行動の原動力は、「怒り」。それは、娘を殺した犯人に対する怒りであり、警察へ対しての怒りであり、元夫に対する怒りであり、そして事件当日、反抗期の娘へひどい言葉を投げつけた自分自身への怒りなのでしょう。でも「怒り」に任せた行動は、やはりうまくいかないものだな、と思わざるをえませんでした。

一方、悪徳警官ディクソンは、映画の前半は、マザコンのうえに差別と偏見丸出しで嫌われ者役を演じています。 ディクソン、ポリスアカデミーをよく卒業できたな(留年したらしいけど)ってくらいダメダメ警官。しかし、後半は意外な顔を見せます。 でも頭の悪さはそのまま。 警察署長に「(容疑者)は、事件当時、軍隊にいて、どこにいっていたかは国家機密だから言えない」と言われても、全然ピンとこない。「ヒントをやろう。 そこは砂がいっぱいあるところだ。わかるだろ?」って言われても、「わからない」と答える。イラクに決まってるわけですが、この辺、さびれた田舎町の内向性を象徴しているのかもしれません。 それに頭が悪いからこそ、ああも単純に”手紙”にほだされた可能性も高い。

善人か悪人かなんて、単純に決められるものではなく、人間はいろんな面を持ち合わせていて、何かをきっかけに、良い面や悪い面がフォーカスされるだけなのかも。

キャストがすばらしい

ミルドレッドを演じたフランシス・マクドーマンドは、「ファーゴ」でアカデミー主演女優賞を受賞しているベテラン女優。ジョエル・コーエンの妻でもあり、コーエン兄弟の映画で有名です。この人、本当に好き。おそらく本作品で、2度目のアカデミー賞受賞となる予感がします。

ディクソンを演じたサム・ロックウェル。これまであまり印象にありませんでした。でも本作品では、とっても光っていました。ぜひアカデミー賞助演男優賞を受賞していただきたい。

警察署長ウィロビー役のウディ・ハレルソンもよかったです。「ナチュラルボーン・キラーズ」や私生活でのお騒がせ事件のおかげで、彼は私の中では、すっかり「悪人」イメージが出来あがっていました。しかし本作品では終始一貫「いい人」を演じ、いちいち泣かせます。

舞台はアメリカの保守的な田舎町。差別や偏見が日常的で、この映画だけで判断したら「住みたくない」町です。息苦しいような町で起こる事件の数々。 ミルドレッドとディクソンが、共にアイダホへと向かう最後のシーン。 ググってみると、ミズーリ州からアイダホ州へは、なんと車で24時間もかかる! 二人の会話からは、それぞれのやりきれない気持ちがすでに消化されつつあることがうかがわれ、余韻を残しつつも、少し救われたような気持になりました。

「スリービルボード」公式サイト

www.foxmovies-jp.com