旅の話

大人女子(50's)の旅支度。旅の他、映画・海外ドラマの忘備録。

映画「ハドソン川の奇跡(原題:Sully)」 

字幕の勉強のために「ハドソン川の奇跡」を鑑賞。 2009年に実際に起きた航空事故の生還劇とその後の出来事を描いた映画です。 クリント・イーストウッド監督・製作。トム・ハンクス主演。

まったく期待していなかったのですが、すごくよかった。 なんかこみ上げる感動があったのでご紹介。

あらすじ

2009年1月15日、ニューヨーク。USエアウェイズ1549便がニューヨーク・マンハッタン上空を飛行中、バードストライクによって全エンジンが停止、コントロールを失う。ベテラン操縦士サレンバーガー(サリー)機長(トム・ハンクス)は、苦渋の決断の末、ハドソン川に機体を不時着させる。その結果、1人の犠牲者も出さず、この生還劇は「ハドソン川の奇跡」として全世界に報道され、機長ら乗務員は英雄として称賛される。 事故から数日後、国家運輸安全委員会 (NTSB) によって事故原因の調査が行なわれた。 サリーと副操縦士のジェフリー・スカイルズは、その過程でハドソン川不時着の判断が適切であったかどうか、また、左エンジンは本当は動いていたのではないかという疑いを持たれ、空港への着陸が可能だったとするNTSBから厳しい追及を受けるのだが…。

 

感想

公開時に見ていない理由の一つは、クリント・イーストウッドの監督作品だったから。 彼が、とてもすばらしい俳優であり監督であることに異存はありません。 ただ、彼の監督作品である「ミスティック・リバー」や「ミリオンダラー・ベイビー」を鑑賞した後の「やりきれない気分」、日常生活に支障をきたしそうなモヤモヤ感を消化するのが難しく、その後の作品は見ていないのです。 念のためにいうと、「ミスティック・リバー」も「ミリオンダラー・ベイビー」もアカデミー賞をはじめ数々の賞を受賞している優れた作品ではあります。

 

さて、本題の「ハドソン川の奇跡」。 この航空事故は、当時、かなり大きなニュースとなったので、私も記憶があります。 ニュースをみながら、「マンハッタン上空を低空飛行する機体を見た人は、2001年9月11日の同時多発テロを思い出し、『またか!』と思ったんじゃないかな?」とか「不時着後、30分足らずで全員を救助したって、すごい連携プレーだな」などと思ったものです。

 

映画を見る前は、そんな奇跡の不時着劇を称賛する内容かと思っていたのですが、ちょっと違いました。 むしろ、事故後、国家運輸安全委員会に判断ミスを疑われる機長のお話。

 

驚くことに、ニューヨークのラガーディア空港を離陸してからマンハッタン上空でエンジンが停止し、ハドソン川へ不時着するまで、なんと5分間の出来事だったそうです。

 

航空事故のシーンが描かれているにもかかわらず、全体的にはとても静かで地味な作品です。 そこがいい。 「劇的」な装飾がない分、リアルさを肌に感じる。 サリーは、世間から英雄視される一方で、ローンの心配をしたり、ちょっとPTSD気味になったり、解雇されたら退職後の仕事に響くなと心配したり。その様子が極端じゃなくて人間味がある。 ラストのサリーのセリフもトム・ハンクスの抑えた演技と共にじわじわと心にしみます。ところどころで泣きそうになってしまったのは、年のせいだけではないでしょう(たぶん)。

 

映画の後半、公聴会国家運輸安全委員会から責任を追及されるサリーとジェフリー。 コンピュータ上のシミュレーション、パイロットによるフライトシミュレーションの双方で、ラガーディア空港及びテターボロ空港双方への着陸が可能だったことが示されたからです。 しかし、シミュレーションからは155名の人命を背負ったパイロットが状況判断に要する人的要因(思考時間や心理状態)が排除されていると、“冷静に”抗議するサリー。 生まれて初めてトム・ハンクスをカッコいいと思いました。

乗客全員の命を救ったのに責任を追及されるような場においても、冷静でいられる精神こそ、機長の資質なのかもしれません。

 

実際のサリー機長は1951年生まれなので、この事故の時、58歳。超ベテラン操縦士です。 長年の経験とプロ意識が成し遂げた「仕事」に感動しました。

ミスティック・リバー」や「ミリオンダラー・ベイビー」同様、鑑賞後も心がざわついたままなのですが、ポジティブなざわつき感なのでよし。

Netflixなどでも配信中。 96分というコンパクトな映画ながら見ごたえがある作品です。

ぜひぜひ見て欲しい。