旅の話

大人女子(50's)の旅支度。旅の他、映画・海外ドラマの忘備録。

映画 「ゲティ家の身代金」感想とネタバレ 金持ちで何が悪い!

1973年に実際にローマで起きた、大富豪ジョン・ポール・ゲティの孫の事件を描いた『ゲティ家の身代金』(原題:All the Money in the World)を鑑賞しました。

あらすじ

世界一の大富豪、石油王のジャン・ポール・ゲティ(クリストファー・プラマー)の17歳の孫ポールが誘拐され、1700万ドル(18億円くらい?)という破格の身代金を要求される。しかし、大富豪だかケチでも有名だったゲティは、その支払いを拒否する。ポールの母ゲイル(ミシェル・ウィリアムズ)は、離婚によりゲティ家を離れ、一般家庭の人間になっていた。彼女は、身代金を用意して息子を救い出すために、誘拐犯だけでなく、ゲティとも戦うことになる。いっこうに身代金が払われないことに犯人は痺れを切らし、ポールの身にも危険がせまっていた。 ゲイルは、息子を救うため、大勝負にでるのだが…。

ジャン・ポール・ゲティの正義

ジャン・ポール・ゲティは、アメリカ合衆国の実業家で石油王。生前は、世界一の大富豪でありながらケチだったことで有名だったそうです。 美術コレクターでもあった彼の収集品は、現在、ロサンゼルスのゲティ美術館で管理されています。 5人の女性と結婚、息子が5人。 なかなかにぎやかな生涯だ。

映画では、当初、ゲティ役にはケビン・スペイシーが起用されていましたが、セクハラスキャンダルの末降板。 公開まで1ヵ月半しかない時点で、クリストファー・プラマーが急遽代役となったことでも話題になりました。 クリストファー・プラマー88歳、リドリー・スコット監督80歳。 2人合わせて168歳(!)の御大が、たったこれだけの期間に再撮影するって、頭が下がります。

結果的に、この配役は大成功だったと思う。 ケビン・スペイシーは役者として嫌いじゃないけれど、豪華で上品、かつスタイリッシュ、貴族のようなライフスタイルをおくっているゲティ役は、クリストファー・プラマーの方が断然似合う。

孫の身代金を値切って、しかもその支払を節税対策に利用するって人としてどうよ?というのが大筋の意見でしょうが、私は、(作品中の)ゲティが憎めません。というより、けっこう好きかも!

「金持ちなんだから孫の身代金くらい払えよ」と誰しも思うかもしれませんが、「身代金を払わない」という言葉の裏に、彼の「正義」がうかがえる。 「孫は14人いる。犯人の言うとおりに身代金を支払ったら、他の孫にも同様の被害が及ぶ可能性が高くなる」と彼は言っています。

大局的には、「犯罪者やテロリストの要求に従うことは、前例を作ることで、さらなる犯罪や暴力を助長することになる」ということ。 しかも、お金を払ったからといって無事に解放される保証なんてどこにもない。

正論だし、彼の「正義」だと思います。

彼の人生において、多くの判断は間違っていなかったと思います。 判断と決断を間違えなかったからこそ、中東での油田の開発にも成功し、世界一の富豪にまでなれたのではないでしょうか?

身代金の要求には屈しないけれど、孫を救い出すために、元CIAの交渉人を差し向けるなど、ビジネスで成功を遂げた人間なりの事件解決へのストラテジーがあります。

母の正義

誘拐されたポールの母親ゲイルを演じるのは、ミシェル・ウィリアムズ。 最近では、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」での演技が印象的でした。

実力のあるステキな女優さんだけど、クリストファー・プラマーの怪演にはかなわない…。

それはともかく、息子を誘拐された母親としては、「正義」とか言ってる場合じゃない。 とにかく自分の息子を助けるためなら何でもするわ、の臨戦体制。

ビジネスマンとして海千山千を乗り越えた経験をもとに冷静な思考回路を持つゲティと、“息子第一主義”、感情優先、猪突猛進の母親の対比が面白い。

富豪と誘拐犯

もう一つ、対比が面白いのは、ゲティと誘拐犯たち。

世界一の富豪と言われたゲティですが、その私生活は家族愛とは無縁に描かれています(実際にそうだったかは不明)。 その一方、イタリア人の誘拐犯たちは、貧乏だけど、家族を大事にし、仲間と一緒にパスタとワイン、音楽を楽しみます。

まあ、どっちの人生がいいの? と問われたら、私はゲティですが。

そんな金持ちゲティは言ってます。 「自分が持っているお金を数えられるなら、その時点であなたはお金持ちじゃない」

ああ、ステキ。

いつか私も言ってみたいわ。

そして、「悪者」は誘拐犯たちなのに、それを上回る「悪者」扱いになっているあたり、やはりゲティは、ただ物じゃない。 もう、誘拐犯一味のひとり、チンクアンタ(ロマン・デュリス)が、善人に見えてくる謎の症状…。

そんなゲティを演じたクリストファー・プラマー88歳は、出演オファーから約1か月後にはゴールデン・グローブ賞助演男優賞にノミネート、約2か月後にはアカデミー賞助演男優賞にノミネートされることとなったのだから、人間、死ぬまで何があるかわかりません。

まとめ

とても楽しめた作品。 でも、孫のポールが開放された後の数分間の展開はなくてもよかったかもしれない、というかポールの行動にイラッとくる。結構長めの尺の映画なうえに、内容がコッテリなので、観客も疲れているというのに…。 何度も言いたくなったよ、

ポール、そこを動くな!

 

ケビン・スペイシーには申し訳ないが、クリストファー・プラマーじゃなかったら、ここまで面白くなかったかも、という作品。

 

作品情報

ゲティ家の身代金(原題:All the Money in the World) 製作年 2017年 製作国 アメリカ 上映時間 133分 監督 リドリー・スコット 脚本 デヴィッド・スカルパ 原作 ジョン・ピアースン「ゲティ家の身代金」 出演者 ミシェル・ウィリアムズ クリストファー・プラマー マーク・ウォールバーグ